📖 売れる接客の教科書シリーズ
第1章(基礎〜販売):第1〜10話はこちら
▶ 第2章:個人売上 実践強化編
「少し考えます」
販売員が一番聞きたくない言葉です。頭の中が一瞬真っ白になって、とっさに「そうですよね、ゆっくり考えてください」と引いてしまう——そんな経験はないでしょうか。
でも、ここからが本番です。
「少し考えます」はゴールではなく、スタートラインです。この一言の後にどう動くかで、決定率が大きく変わります。
私は現在も外資系ラグジュアリーブランドでプレーイングマネージャーとして働いています。切り返しが苦手なスタッフに共通しているのは、「何を言うか」ばかりを考えていること。本当に必要なのは、「なぜ迷っているか」を特定することです。
切り返しの本質は「言葉で押すこと」ではなく
「悩みの原因を特定すること」
原因がわかれば、対応はシンプルになる。
なぜ「言葉で押す」と失敗するのか
「少し考えます」と言われた瞬間、多くの販売員はこう動きます。
❌ よくある反応(逆効果になりやすい)
- 「こちら、本当におすすめなんです!」と再び押す
- 「在庫が少なくて…」と焦りを煽る
- 「今日だけ特別に…」と値引きをほのめかす
- 「ゆっくり考えてください」とすぐ引いてしまう
押せば構えられ、すぐ引けば次につながらない。どちらも「なぜ迷っているか」を無視した行動です。
まずやるべきことはひとつ。推測できるなら推測する。わからなければ直接聞く。
「何かご不安な点がございますか?」
→ この一言だけで、お客様が自分から理由を話してくれることが多い。原因がわかれば、あとは対応するだけ。
悩みの原因は4パターンに分けられる
「少し考えます」の裏にある理由は、ほぼ次の4つに集約されます。
① 価格が気になる
「想定より高かった」「他と比べてどうか」「今買う価値があるか」——価格に関する迷いは最も多い。
② 用途が合うか不安・誰かに相談したい
「家族・パートナーに見せたい」「自分のクローゼットに合うか確認したい」——一人では決めにくいケース。
③ 他店・他ブランドと比較したい
「他も見てから決めたい」——悪意はなく、慎重なだけ。無理に引き止めるより、賢い対応がある。
④ その他(タイミング・気分など)
「今日は見るだけのつもりだった」「特に理由はないが今日じゃなくていい」——感情的なタイミングの問題。
どのパターンかがわかれば、対応は変わります。逆に言えば、パターンを特定せずに同じ切り返しをしていると、的外れな対応になります。
原因別の対応——①価格が理由の場合
価格の迷いには、いくつかのアプローチがあります。状況に応じて使い分けてください。
ポイントアップを案内する
カードのポイント還元・キャンペーンがあれば実質価格を具体的な数字で伝えます。「実質〇〇円になります」は響きます。
在庫の希少性を伝える
潤沢にある商品は希少性を使えませんが、実際に在庫が少ないなら正直に伝えて構いません。
✅「こちら、今この色はこちらのサイズが最後なんです」
価格改定の可能性を伝える
ラグジュアリーブランドは定期的に価格改定があります。「早く買う方が得」という事実は正直に伝えていい。
✅「このブランドは年に1〜2回価格改定があります。今の価格で買われる方が長い目で見るとお得です」
他ブランドとタブレットで比較する
「他と比べてどうか」という迷いには、逃がす前にタブレットで競合の価格帯を一緒に確認します。自ブランドの優位性が伝わることが多い。
カードのお得感を数字で伝える
「他デパートのカードとどちらがお得か」という迷いには、還元率を具体的に計算して見せます。数字には説得力があります。
原因別の対応——②用途・他者相談が理由の場合
「パートナーに見せてから」「家族に相談してから」というケースは、その相手が来ないと本質的には解決しません。無理に引き止めようとするより、次の手段を提案します。
✅ ビデオ通話で相談相手をつなぐ
「もしよければ、今その方にビデオ通話でお見せすることもできますよ」と提案します。店頭でその場でつないで見せることができれば、「持ち帰って検討」が「今日の購入」に変わることがあります。
スマートフォンで商品を映しながら相談相手に見てもらう——このひと手間が、他のスタッフとの大きな差になります。
原因別の対応——③他店・他ブランドと比較したい場合
「他も見てから決めます」と言われた時、引き止めようとするほど信頼を失います。ここは逆の発想が効きます。
「快くリリースする」が最強の切り返し
引き止めれるだけ引き込む努力はします。それでも「一度見に行ってから」という場合は、強く引き止めません。
✅ 快くリリースする時のセリフ例
「〇〇ブランドが気になるなら、ぜひ一度見に行ってきてください。その上で私たちのブランドの良さをわかっていただけると思います。またいつでもいらしてください」
自ブランドへの自信を伝えた上で、笑顔で送り出す。これをされたお客様は「押しつけてこなかった」という印象を持ちます。信頼が生まれて戻ってくることが多いのは、この対応をしている販売員です。
無理に引き止めて買わせたお客様より、納得して戻ってきたお客様の方が、長期的な常連になります。
「今買うメリット」を伝える3つの切り口
原因別の対応とは別に、どのパターンにも使える「今買うメリット」があります。状況に応じて1〜2点を自然に添えてください。
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① 在庫の希少性
ラグジュアリーブランドの商品は潤沢に在庫があるわけではありません。「今日ある」は「明日もある」ではない。これは事実として伝えていい。
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② 価格改定のリスク
「欲しいと思った時が一番安い」は、ラグジュアリーブランドでは特に当てはまります。年1〜2回の価格改定が続くブランドも多い。早く買う方が得という事実は、背中を押す材料になります。
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③ 使える時間が増える
「今日買えば今日から使える」——当たり前のようで、迷っているお客様には刺さることがあります。「早く手に入れるほど、長く楽しめる」という視点です。
ただし、これらを全部並べると「押しつけ」になります。1つ選んで、さりげなく添えるのがポイントです。
それでも決まらない時——プロスペクト獲得が次の一手
ここまでやっても今日は決まらないことがあります。そのとき、大事なのは「何も持たずに帰してしまわないこと」です。
連絡先(プロスペクト)を必ず取っておきます。これが次の来店・購入につながる唯一の手がかりです。登録の取り方は第12話で詳しく解説しています。
登録後のフォローの流れ
① 当日中:パーソナルなサンキューメール
「定型文」ではなく、接客中の会話を1つ入れた個別のメールを送ります。
✅「本日はご来店いただきありがとうございました。先ほどご覧いただいた〇〇、まだご用意がございます。ご検討の材料になれば幸いです」
② その後:333ルールで継続フォロー
3日後・3週間後・3ヶ月後のタイミングでさりげなく接点を作ります。詳しくは第6話の333ルールを参照してください。
「今日決まらなかった=失敗」ではありません。プロスペクトを取って、パーソナルなフォローができれば、それは「次回来店の予約」です。
まとめ
- ✅「少し考えます」は終わりではなくスタート——ここからが本番
- ✅ 言葉で押す前に「なぜ迷っているか」を特定する。「何かご不安な点がございますか?」の一言で原因がわかる
- ✅ 原因は4パターン(価格・用途相談・他店比較・その他)——パターン別に対応を変える
- ✅ 比較したいお客様は「快くリリース」——信頼が生まれて戻ってくることが多い
- ✅ それでも決まらなければプロスペクト獲得→パーソナルフォローで次の来店につなげる
📋 明日からできること
✅ 「少し考えます」と言われたら、まず「何かご不安な点がございますか?」と聞く:言葉で押す前に原因を特定する。この一言で、お客様が自分から話してくれることが多い
✅ 「他も見てから」と言われたら、快くリリースする:「ぜひ見に行ってきてください。その上で私たちのブランドの良さをわかっていただけると思います」——この一言で信頼が生まれる
✅ 今日決まらなくても、必ずプロスペクトを取る:帰りがけに連絡先を取って、当日中にパーソナルなサンキューメールを送る。「今日の接客」を「次回来店の予約」に変える
📖 次回予告
【第15話】現役ラグジュアリーブランドマネージャーが教える|高額商品が売れる見せ方
値段を見た瞬間に「高い」と思われないために——高額商品には「見せ方の順番」がある。


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